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草津A・SQUARE店/ミュージックサロンA・SQUARE

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カオスで楽しい超高速ピアノ ナンカロウ

草津A・SQUARE店/ミュージックサロンA・SQUARE

 今回紹介するのは、アメリカで生まれ、メキシコに亡命してから本格的に作曲活動を始めた前衛音楽家 コンロン・ナンカロウ(1912-1997)です。
 残されている作品の大半は、プレイヤー・ピアノ(自動演奏ピアノ)のシステムを使って作曲されたもので、自動演奏用のロール紙に一つ一つパンチ穴を開けていくという、とてもシンプルかつ根気のいる方法を取って、人間では演奏できない複雑なリズムやメロディーの曲を作っています(そのほとんどは五線譜にも記譜されてます)。
 それらは「自動演奏ピアノのための習作(Study)」と名付けられ、約50曲程ある中から今回お気に入りのものを紹介します(解説中にピアノ以外の楽器が出てきますが、それは私がイメージした音色のものです)。

  No.3a:No.3は全部でa~eの5曲からなります。そしてこの最初の2曲(aとb)を聴けば、ナンカロウの音楽スタイルが、ある程度理解できるでしょう。まず3aですがこの曲は最後まで不変の超高速ベースパターン(コード進行はⅠ‐Ⅰ‐Ⅳ‐Ⅰ‐Ⅴ‐Ⅰ)に乗せて次々とハイテンションなモチーフが出てくるというものです。最初はベースラインと同じ拍子ですが、所々違う拍子に変わっていき、中盤メロディーっぽいモチーフが出た後からこの曲のカオスな部分に突入していきます。まず中音域にベースパターンを若干テンポを落として、メロディーにしたものが流れ(もちろんベースラインとは かみ合いません)、しばらくして今度は高音域でさらにテンポを落としたメロディーが流れます。つまりメロディーは同じだけどテンポが違う(正確には音価が違う)ものが3つ同時進行していくのです。そして最後は5オクターブに及ぶF#とC#の打鍵が加わり何も解決しないまま曲が突然終わります。

  No.3b:この曲もベースパターンは最後まで同じですが、3aと違いとてもゆったりとしたテンポなので、曲の展開に対する理解は(他の曲よりは)しやすいと思います。曲の途中ではピッコロとトロンボーンによる可愛らしい二重奏が聴けます。この曲のカオスな部分は最後から一つ前のベースパターンのところで、こちらはテンポも拍子も同じなのですが、4つの同じメロディーが1拍ずつずれて演奏をしていきます。そして盛り上がった直後の一瞬の間。そして最後は冒頭のモチーフをフルートと、(ミュートをつけた)トランペット、ウッドベース(ピチカート)、ドラムスで静かに奏して終わります。

  No.5:今回紹介する中では一番前衛的な音楽です。まず最初はやはり最後まで一定のベースライン(ハ長調を基本としたコード進行です)と中音域でホルンによるF#‐G#‐H‐C#‐D#‐F#の上行形(これも曲の最後までひたすら繰り返しです)。この2つのパートの後に次々出てくる新たなパートが、それぞれのモチーフを、それぞれの間隔でただひたすら繰り返し演奏するというものです。途中から加わるトランペットの3和音からタイミングが取りやすくなりますが、最終的にパートは13段まで増え(一台のピアノで13ものパートがあるんですよ!!)、一部のパート(主にアルペッジョで演奏しているパート)は、後半演奏する間隔がだんだん短くなって最後は休みなしでアルペッジョを繰り返すカオス状態に突入し、この曲もまた突然終わりを迎えます。この曲はアンサンブル・モデルンという現代音楽専門のグループが室内アンサンブル用に編曲して、ほぼ原曲に近いテンポで演奏しています(No.6,7,12も編曲しています)。

  No.6:この曲は静かでとてもきれいな曲です。ただ聴いているだけでは特に違和感は感じないかもしれませんが、実際の楽譜は同じ1小節に異なる3つの拍子を無理矢理まとめているのです(文章だけの説明ではたぶん意味は通じないと思う…)。でもなぜか心地いいので眠れない夜に聴くといいかも。

  No.7:これは私の一番のお気に入りの曲です。高速でとても解りやすいメロディーが次々あらわれ、突然ゆっくり静かになったり、各声部がユニゾンで奏したりと展開が楽しい曲です。後半はやはりカオス状態になるのですが(クラリネットが凄いです)、他のテンポの速い曲とは違い、ラストはスカッと元気よく終わります。

  No.12:これもお気に入りの曲です。最初は同じテンポ、同じタイミングで3つのパート(ベース、内声部、メロディー)のみで演奏され(ただし拍子は1小節ごとにコロコロ変わります)、メロディーの音型がだんだん細かくなっていく、という曲です。途中カッコいいホルンのソロを経てファゴットとトランペットの二重奏からスペイン的な雰囲気に包まれていきます。この曲もラストはカッコイイですよ。

  No.37:この「ナンカロウ/自動演奏ピアノのためのStudy」はいくつかの曲がSchott社より10曲程集めて出版されていますが、このNo.37はこれ1曲だけで出版されています。この曲は同じメロディーラインをテンポやタイミングを少しづつずらして積み重ねるというスタイルの曲で、メロディーラインも静かなもの激しいものなどと、ころころと変わっていきます。そして曲の開始から4分を過ぎた頃に、この世のものとは思えない程の美しい響きが一瞬だけ出てきます。是非この部分だけでも聴いてナンカロウの虜になってほしいです。
 楽譜もCDもほぼ輸入物になりますが、それほど入手は難しくないでしょう。

                         2019.1.13 Vol.27