シューベルトの交響曲について
スタッフTKのオススメクラシック 2019.4.30(平成最後の日) Vol.29
草津A・SQUARE店/ミュージックサロンA・SQUARE
フランツ・シューベルト(1797-1828)が「歌曲王」と呼ばれたのは、もう過去の話です。勿論多くの歌曲は世界中の声楽家の重要なレパートリーですが、ピアノ曲にも室内楽曲にも、そしてオーケストラ曲にも数多くの作品があり、今回は交響曲全般について話をしていきます。
シューベルトの交響曲は全○曲です。実はシューベルトの交響曲の数は時代によって、また最新の研究が発表されるたびに変わっているのです。まず1865年シューベルトの死後37年も経って、あの有名な未完成交響曲が発見され、これ以降LPレコード全盛期までは交響曲は全9曲。二十歳までに作曲された5曲(!!)、21歳の時の交響曲 ハ長調D.589、ここまでの第1~6番まではどの時代も共通ですが、次が問題のある作品で、作曲されたけど楽譜が紛失してしまった(とされる)幻の交響曲D.849、あるいは全4楽章のピアノスケッチが残されているD.729を第7番として(通常は演奏されることはなく、「シューベルト/交響曲全集」でも録音しないことがほとんどです)、第8番が「未完成」交響曲D.759(1822年、シューベルト25歳の作品、この歳で作曲したと思って聴くと恐怖さえ感じてしまいます)。そして第9番が、これもシューベルトの死後、シューマンによって発見され、メンデルスゾーンの指揮で初演された ハ長調D.944「グレート」です。
その後、第7番は結局存在しなかった、あるいはシューベルト自身によってオーケストレーションされていないとして、ナンバリングから除外されて、第8,9番がそれぞれ繰り上がって全8曲。現在はこれが主流ですが「未完成」と「グレート」は旧番号が慣れ親しんでいるため、コンサートやCDでの表記は交響曲第8(9)番「グレート」という風に併記されています。
また「未完成」交響曲以外にも未完に終わった(完成されていない)交響曲が、他にも数曲あるため、「未完成」交響曲もナンバリングから外されて、「グレート」交響曲を“第7番”と表記しているものもあります。
そしてシューベルトの研究が進むにつれ、交響曲が全9曲だった頃、当時のLPレコードの解説に記載されていた、いくつかの通説が覆されています。
一つが、私も長い間信じていたもので、歌曲やピアノ小品などは「シューベルティアーデ」と呼ばれた、シューベルトの仲間たちの集まりで作品が発表されていったのですが、交響曲は人数や規模などの関係でシューベルトは実際にオーケストラの響きとしての音を1曲も聴かないまま(!!)次々と作曲していった、というものです。第5番だけはリハーサルの段階で音を聴いていた可能性があったのですが、他の初期の交響曲もシューベルトの家族を中心としたメンバーで私的に演奏されていたのです(もちろんオーケストラの定期演奏会などで公式に演奏されたのは、すべてシューベルトの死後ですが…)。
そしてもう一つが「グレート」の初演です。「グレート」がお蔵入りになった理由とその後は、涙なしには書けないものです。1827年 楽聖ベートーヴェンが亡くなり、ウィーン楽友協会が次の演奏会で取り上げる交響曲をシューベルトに依頼します。通説では翌年1828年の初めに「グレート」を一気に書き上げた、とされていたのですが、実際はその2年程前にすでに全楽章作曲が出来上がっていたものを提出したのです(なんとスコアの表紙 1825(作曲した年)の「5」を「8」に修正しているんです!!)。
しかし「グレート」は長すぎるなどの理由で断られ、それならば代わりにと、10年程前に作曲していたもう一つのハ長調の交響曲D.589を協会に送って、その年の暮れ1828年の12月14日に第6番がシューベルトの交響曲で初めて公の場で演奏されたのですが、残念ながらその一ヶ月前の11月19日にシューベルトは既にこの世を去っていたのです…(享年31歳)
そして10年後シューマンによって「グレート」の楽譜が発見され、初演されたというのが通説でしたが、実はシューベルトの追悼演奏会で「グレート」のいくつかの楽章が演奏されていたという説が最近出ています。アーノンクールの演奏したCDの解説書にそのことが書かれていたのですが、まだ確実な説ではないようです。
では今回はシューベルトの交響曲の中から「グレート」交響曲D.944の聴き所をいくつか紹介します。第1楽章は私は再現部の入り方をオススメポイントにあげます。提示部は長い序奏からクレシェンドして力強く入るのですが、再現部では逆に展開部の終わりからだんだん静かになってピアノで第1主題を演奏します。その後シューベルトは楽譜にsempre P(常に弱く)と書き込んでいます。つまり盛り上げたくなるところを「クレシェンドするな!」と指示しているのです。それが38小節も続き木管楽器の不協和音から徐々にクレシェンドしていくのです。他にも第1楽章のラスト、ホルンとトランペット、ティンパニの3連符の部分(683小節目)も指揮者によってまるで違うので是非聴き比べてみて下さい。
そして魂揺さぶられる第2楽章。ロンド形式の2回目のAの部分の後半(210小節)からの怒涛の展開と静寂、そして流れる安らぎのメロディー。第2楽章はこの交響曲でも別格の存在です。ちょっと大袈裟でゴツゴツした感じの第3楽章を経て、高速テンポでひたすら突っ走るフィナーレの第4楽章。この楽章の第2主題は(どの解説書にも書かれてませんが)後打ちのリズムによるメロディーです。楽しくノリノリな気分で聴いて下さい。
この曲は数多くの録音がありますので、是非ともお気に入りの演奏を(いくつも)見つけて下さい。
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