青いユリのために
スタッフTKのオススメクラシック 2019.07.17 Vol.31
草津A・SQUARE店/ミュージックサロンA・SQUARE
昔々、ある国に高齢で病に臥せっていた国王がいました。ある日、彼は3人の息子を呼び出し、「この中で私の病に効くという『青いユリ』を採ってきた者に王位を譲ろう」と言います。3人のうち上の2人の兄は、ろくに探しもせずに遊びほうけ、末っ子だけが方々に行き、必死に探していました。そして三男が遂に青いユリの花を見つけますが、それを聞きつけた兄2人に殺され、花を奪われてしまいます。そしてその後三男が殺された場所から青いユリが咲き、ここで起きた悲劇が露見する…というスペイン・バレンシア地方のちょっと怖い昔話です。国王の病は治ったのか? 誰が王位を継いだのか? など、あやふやな点はあるのですが、この話をもとにして演奏時間20分程の交響詩を作りあげたのが、ギターと管弦楽のための重要なレパートリーである「アランフェス協奏曲」を作曲したスペインの作曲家、ホアキン・ロドリーゴ(1901-1999)です。この曲はロドリーゴ初期の作品で、アランフェス協奏曲よりも5年も前、1934年に作曲されました。
曲はまずスネアドラムのロールにのせて、金管楽器のファンファーレから始まります。通常ファンファーレといえば、厳かな雰囲気、あるいは明るく活発なイメージがありますが、この曲では兄弟の対立を不協和音と2つのパートのかけ合いで表しています。そしてティンパニと弦楽器で『ミミソソ』と2つの音のみを繰り返す伴奏(曲のラストで少し形を変えて再び使われます)が出ると、さらに対決色が強まります。その後ファンファーレが止み、伴奏も静かになって、ハープのアルペッジョを伴ってヴィオラのソロでなんとも悲しいこの曲の主要主題が出ます。このテーマが形を変え、曲のいたる所にあらわれ、他のモチーフとともに展開していきます(途中かわいらしいメロディも出てきます)。そしてクライマックスを迎える所でホルンのグリッサンドによる悲痛な叫びが聞こえ、その後の静寂。
そして低音域でのハープの異様な響きを伴って、主要主題がまずコントラファゴットで奏でられます。ここからの数分間は、シベリウス/交響曲第2番 終楽章ラスト直前を思わせ、聴いていてとても胸が締め付けられます。そして様々な楽器でメロディーが受け継がれ、しばらくすると突然テンポが速くなり、fffでトランペットとトロンボーンがテーマのモチーフを荒々しく演奏して、まるでオーケストラ全体が嵐の中にいるような状況で、圧巻のラストを迎えます。
あまり演奏も録音もされない曲ですが、私が初めてこの曲を聴いたのは、作曲から50年後に手掛けられた吹奏楽編曲版でした。20分という演奏時間のため、コンクールはもちろん演奏会でもほぼ取り上げられていません。またロドリーゴには「管楽合奏のためのアダージョ」という10分程のオリジナルの吹奏楽作品もあります。こちらもあまり演奏されませんがオススメです。
2019.07.17 Vol.31
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